No.012|ベロニカブルース

ベロニカはいちじくが好きだった。彼女は毎日、ドライフラワーを飾った部屋で、いちじくをひとつずつ口に運んだ。

彼女は砂のように乾いた感触が心地よかった。彼女は雨音を聞くのも好きだった。
雨が降ると、彼女は窓辺に座って、瞳の奥に映る水滴を見つめた。彼女は自分の涙と同じ色だと思った。

彼女は誰も知らない秘密を抱えていた。
彼女は恋をしたことがなかった。
彼女は恋をするといちじくが食べられなくなると思っていた。

彼女はいつも、いちじくとドライフラワーと雨音と瞳の奥に隠れていた。

No.012|ベロニカブルース https://one.maruch.net/story/302

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