No.42|ミヤモト換算

1。図書館から借りた本は、読まないまま午前0時を越えると、1ページにつき8グラム重くなる。市はこれを延滞ではなく自然現象として扱っている。返却期限とは別なので、罰金はない。

肩は痛くなる。

2。佐伯は土曜の同窓会に持っていくため、512ページの『比較的難しい倫理学』を借りた。読むためではない。堀口が先月の飲み会で「最近は長いものしか読めない」と言ったからだ。佐伯は長いものを持っていくことにした。

3。初日は740グラム。2日目の朝には4.8キロ。3日目、通勤電車で網棚が3センチ下がった。整形外科では肩こりと診断されたが、医師は本の題名を見て診断書に「文化的負荷」と追記した。

4。読むふりは効かない。鉛筆で線を引いても、ページを折っても、写真を撮ってSNSに「再読」と書いても、重さは減らない。

本は理解されたページだけを軽くする。図書館はこの点について妙に厳密だった。

5。木曜、佐伯は代読サービスを頼んだ。200ページまで3800円。要約付きは500円増し。作業員は喫茶店で2時間読み、余白に鉛筆で小さな丸をつけて返した。本は2.1キロ軽くなった。

佐伯は感動し、その晩、自分でも丸だけを真似した。重さは1グラムも変わらなかった。

6。金曜の昼、図書館の周辺だけが暗くなった。気象台は日食ではないと発表したが、区役所は「局地的日食」と呼んだ。夏休みに借りられた自由研究の本が、町じゅうで一斉に重くなったためだった。歩道の影は図書館に向かって少し傾いていた。

7。同窓会当日、佐伯は追加で150ページを代読させた。レシートは本の後ろに挟んだ。合計6900円。

知識に領収書が出るのは安心だった。

8。会場で堀口は本の表紙を見て「そこ、第4章がいいよね」と言った。佐伯は第4章の代読料金がレシートに含まれていたか確認しようと、反射的に後ろを開いた。白い紙が床に落ちた。堀口が拾った。

9。レシートには「読解代行 350頁」「要約なし」「付録別料金」と印字されていた。堀口はしばらく黙ってから、自分の鞄を開けた。

同じ会社のレシートが3枚出てきた。

10。2人は何も言わず、レシートを重ねた。窓の外で局地的日食が少し濃くなった。

会場の誰かが、まだ1冊も開いていなかった。

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