No.026|落語家・猫町亭三毛

ある日、いぶし銀の落語家・猫町亭三毛(ねこまちていみけ)が、 魚料理人のペスコにマジックを見せようと思った。

「やい、ペスコ。お前は魚ばかり食ってやがるから、塩化水素のマジックを見せてやろう。」
「塩化水素?それは普通に危ないだろう?」
「大丈夫だ。あたしゃプロだからな。」

そう言って、落語家は塩化水素の瓶を取り出した。

「これが塩化水素だ。これを飲んでみろ。」
「え?何だってこんなものを飲まなきゃならないんだ!俺、死んじまうよ!」
「いやいや、飲んでみろ。何も起こらないから。」
「本当か?」
「本当だ。信じてみろってんだ。」

ペスコは仕方なく、塩化水素の瓶を口に持っていった。
すると、落語家・猫町亭三毛はすかさず、ペスコの耳元で囁いた。

「肯定してみろ。肯定してみろ。」

ペスコは驚いて、瓶を離した。

「何だと?肯定するのか?」
「そうだ。肯定するんだ。これがマジックのポイントだ。」
「どういうことだ?」
「簡単なことだ。塩化水素を飲んだら、口から泡が出るだろう?
 そしたら、それを肯定するんだ。」
「肯定するとどうなるんだ?」
「それは肯定してみてからのお楽しみだ。さあ、もう一度飲んでみろ。」

ペスコは不安そうに、再び塩化水素の瓶を口に持っていった。 そして、一口飲んだ。すると、予想通り、口から泡が出始めた。 落語家はニヤリと笑って、言った。

「さあ、肯定してみろ。肯定してみろ。」

ペスコは苦しそうに言った。「うぅ…うん…」

その瞬間、驚くべきことが起こった。 ペスコは目を丸くして、言った。

「すごい…すごいぞ…」

落語家は得意げに言った。

「どうだ?これが塩化水素のマジックだ。肯定するとなんだって平気になるんだよ。」
「肯定するだけで塩化水素が平気になるなんて…なんて非科学的なんだ…。」

ペスコはよほど気に入ったのか塩化水素の瓶を再び手に取るとニヤリと笑って、言った。

「よし。今度は否定してやろう」

猫屋亭三毛が慌てて止めるも間に合わず、ペスコは塩化水素の瓶を口に持ってグビリと口に含んだ。すると、今度は、口から泡が出始めたと同時にペスコは苦しみながらその場に倒れてしまった。落語家はペスコを介抱しながら、ポツリと言った。

「このマジックはなぁ、肯定すれば平気なんだが、否定すると兵器になるんだよ。」

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